「練習の巾乗法則」は広く知られ信じられているが、実験データに当てはめてみると、案外よく合わないことが多い。この法則の基本形は「両対数方眼紙の横軸に練習回数を、縦軸に毎回の作業時間を取ってグラフを描けば直線になる」というものであるが、その「直線」というところに留保がつく。直線的であるはずのグラフが両端ではしばしば平坦になっているように見える。Seibel(1964)およびNewell & Rosenbloom(1981)は、その平坦化の成因を「初期学習」および「人の能力の限界」に求めている。そのような留保がつくことは、法則の予測能力をそぐとともに、背後のメカニズムを読み取ることへの障害になっている。 「なぜそうなのか」という疑問から出発して、報告者は過去7年半にわたり、主として折り紙(実験参加者延べ13名、ほかにあやとり、組木パズル)を題材とする長期的練習実験を実施してきた。その結果今回の補助金受給期間(平成12〜14年度)においては次のことが判明した。 1.得た練習曲線はいずれも実験参加者に、好調と不調の波として認識される波動を含む。従来の「初期学習」および「人の能力の限界」に基づく当てはめは、波動の両端を平坦化部分と誤認した可能性がある。 2.過去の研究が主にデータの平均的推移を論じていたのを改め、画期的新記録(一定の定義のもとに「見晴らし台」と呼ぶ)の推移に着目した。従来方式の当てはめがとかくデータの一部に過敏に反応して不安定に変化し、信頼しがたい結果を生じていたのに対し、この方法によれば常に個々の実験データの特徴をよく反映した要約データが得られる。 3.練習曲線上で、各試行の所要時間が、見晴らし台をつなぐ線(見晴らし線)の何倍に当たる高さにあるかを調べ、その倍数をグラフに描くと、顕著で規則的な波動が現われる。この波動は、参加者に共通の「好・不調」のパターンを示している可能性がある。
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