人工神経ネットワークに関しては、これまでに、生物学的にも妥当性のある幾つかのパラダイムが提唱されており、これらの内「写像」と「緩和」はとりわけ重要なものである。「写像」や「緩和」が何れも妥当であるとするなら、生物の神経系においては、それらが別々に機能していると考えるより、それらが融合した「より上位の枠組み」の下で情報処理がなされていると考えるのが自然である。本研究では、こうした「より上位の枠組み」の存在可能性を探るべく、「モジュール構造をなす動的人工神経ネットワーク」について新たなモデル提案を行い、それらのネットワークのダイナミクスについて総合的に理解することを目的とした。 具体的には先ず最適化問題を例に取り上げ、ネットワークアーキテクチャを導く元となるエネルギー関数の形と固定点アトラクタの種類・性質との関係を中心に議論を行った。続いて、「写像」や「緩和」などの個々のパラダイムについて、「跳躍ロボット制御における制御パラメータの汎化」や「遠隔腕相撲システムにおける動的および静的逆問題の解法への適用」といった応用を通してそれらの個々の能力を調べつつ、モジュールの様々な融合様式の可能性をさらに広く検討した。そして、これらの考察を通して、ある1つの統合モデルを提案するに至った。この提案モデルは、動的ニューロンの出力と膜電位に加え、写像関数(静的ニューロンによる)を用いて動的ニューロンからの直接出力から変換された他の種類の状態変数を含む、特別に構成されたエネルギー関数を最小化するネットワークである。提案モデルは、静的および動的なニューロンの協調によって「変形空間において緩和がなされる」という上位の枠組みを提供しており、本研究の目的に合致する成果が得られたと言える。
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