マルチキャスト通信は、効率的に多人数に情報を配布できる技術として注目されているが、従来の1対1の通信で培われた高信頼化技術やセキュリティ技術が直接適用できない。特に、我々はリアルタイムに仮想空間を共有するための高信頼マルチキャスト技術を開発してきた。我々の提案するマルチキャストシステムでは、利用者をいくつかのドメインに分割し、同期した乱数生成機構とドメイン毎のシーケンスサーバを前提として、メッセージの全順序性、信頼性を与えている。 今年度の研究は、マルチキャストコンテンツの暗号化モジュールの開発と、メッセージ送信率制御機構の開発、及び再送のための木を動的に構築する手法の開発を行った。マルチキャストコンテンツ暗号化モジュールは、マルチキャストの通信チャネルを暗号化するための機構であり、マルチキャストをビジネスやプライベートな情報交換に利用するための機構である。我々は、更に暗号化のデータの管理方式として、閾値暗号を用いて、複数のサーバに情報を分散配置することにより信頼性を更に高める方式を開発した。また、メッセージ送信率制御機構は、再送サーバというマルチキャスト木の中間ノードに設置したサーバによってメッセージ損失率やドメイン毎の送信率から、ドメイン単位で送信量削減率を割り当てる方式を提案した。また、その方式でTCPと親和性のある制御ができることを確認した。再送木の構築手法は、木の概略の大きさを示す情報と、木のノードの枝数と、新たに参加するノードとの間の通信遅延をもとに、木を増分的に構築していく手法を開発し、従来の方法と比較してコンパクトで負荷の偏りがない再送木が構築できることを示した。これらの成果は、国内の研究会、国際会議で報告を行った。
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