琉球方言は、言語学上、日本語の中で特異な位置を占める。これを研究することにより、他の方言にはない特別の視点から日本語を眺めることができるので、日本語の研究に大きく寄与することができる。 そこで我々は、ディジタル音声処理の手法により、音声を人工的に合成し、その聴取実験を行うことにより、琉球方言の音声を高精度に分析した。さらに、琉球方言の中の多様な各方言を合成することができる汎用音声合成システムを開発し、多様な方言の高精度分析を可能にした。 しかし、この汎用音声合成システムは、時間的な広がりに関しては限界があった。すなわち、このままでは古典琉球語の音声は合成できない。沖縄には「おもろそうし」のように古典琉球語でつづられた詩歌があり、しかもその一部は歌唱が伝承されている。琉球方言を含む日本語の研究を、空間的だけでなく時間的にもさらに広げるためには、これら古典琉球語の研究が不可欠である。 そこで本研究では、古典琉球語で書かれたテキストから音声を合成するシステムを開発する。このシステムにより、古典琉球語をモデル構成論的に研究し、その実態を明らかにする。本年度は「おもろそうし」のテキストから歌唱音声を生成するために必要な事項を明らかにし、これを実行するシステムを構成した。不明なこと及びあいまいなことが見つかったので、これらを整理するとともに、現時点で解決不可能なものについては、現代方言など暫定的なもので置き換えた。
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