人工現実感環境は、主に密閉型およびシースルー型のHMDを用い、仮想物体と実物体とを3次元空間内に混在提示した。仮想物体および仮想の手の作成と提示・移動には、仮想環境構築ソフトウエア(Superscape VRT)を用いた。実際の手および仮想の手で、物体への追従動作を行った時の手の3次元位置と運動軌跡の計測には、ファストトラック(磁気センサ)を用いた。 本年度は、昨年度に引き続き、3次元空間内をランダムな方向と速度で移動する仮想の目標物体を、実際の手および遠隔操作状態における仮想の手で追従させる実験を行った。その結果、以下の諸点が明らかとなった。 (1)移動仮想物体の運動方向反転に追従して、手の運動方向が反転するまでの時間(方向反転潜時)は、遠隔操作時の奥行き方向だけで特異的に延長することが多くの被験者で確認された。視覚に基づく手のフィードバック制御は、上下・左右方向の処理を最初に行い、その後に奥行き方向の運動を行う段階的処理に基づくことが再確認され、人工現実環境での奥行き方向のインタラクションに時間的余裕の必要性が示唆された。 (2)仮想の手に対する遠隔操作では、遠隔距離が外側で約20cm、内側で約10cmの範囲内では反転潜時の延長が認められず、実際の手による操作と同様であった。この範囲内では、私たち人間が既に獲得している手の運動制御メカニズムが、訓練によって適応範囲が空間的に拡張され、人工現実環境における遠隔作業の容易性が推測された。 (3)手の協調動作に対する映像要因の影響はほとんど見られず、視対象の画質よりも、その位置を認知できるか否かが重要なファクターであり、人工現実環境での重要性はあまり認められなかった。
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