研究概要 |
本年度の研究においては,先見性を考慮した安定性に基づく2つの解,安定集合と調和集合を用いて,社会的ジレンマにおける主体の行動,および企業間の業務提携の可能性,寡占企業間の立地の問題,ジレンマ状態にある主体間の提携形成の可能性を分析し,以下の成果を得た. 1 昨年度明らかになった,安定集合,調和集合と交渉ゲームにおける定常的な均衡点の集合との関連を,展開形ゲームに基づいて定義された安定性の概念を加えて,より詳しく考察した.その結果,新たな解の概念は,ジレンマ的状況においては必ずしも適切な結果を導き得ないことを明らかにした。 2 安定集合と調和集合を用いて,寡占企業の立地問題を分析した。その結果,各企業が先見性を持って行動すれば,必ず安定集合による安定状態が存在し,すべての企業が等しく利潤を分け合う状態であることを明らかにした。これまでのナッシュ均衡による分析では均衡状態が存在しないケースがあり,ナッシュ均衡に代わる新たな分析の視点を与えた。 3 安定集合とシャープレイ値を用いて,ジレンマ状態にある主体間の逐次的提携形成を分析した。特に,1993年の非自民連立政権(細川政権)成立時の各政党の議席数に基づいて考察し,非自民の政党が連立の口火を切ったときには,この非自民連立政権のみが安定な連立政権の形であることを明らかにした。昨年度の静学的な分析だけではなく,動学的な提携形成の分析においても細川政権が安定な政権であったことを明らかにした。 昨年7月16日〜20日にロシアのサンクト・ペテルスブルグで開催された「第10回動的ゲーム理論とその応用に関する国際シンポジウム」において,上記の2の結果を中心に報告し,この研究の意味,今後の発展の方向などについて,参加者と有益な議論を行った.
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