研究概要 |
消費者ニーズの多様化に伴い,企業経営の一手法としてサプライチェーンマネジメント(以降,SCM)が注目されている.SCMに含まれる経営主体は多種多様であり,その効率的運用にはサプライチェーン全体を複雑系として捉えた解法が必要となる.現在のSCMでは,個々のビジネス主体のビヘイヴィアとして,制約理論(TOC)が用いられている.しかし,一般にTOCはシステム改善を進める上での方向性と手がかりを提供する場合には有効であるが,運用レベルで直面する最適化問題の大半をユーザに委ねているため,商品配分における最適性を追求する新しいアプローチが求められている.一方,複雑系システムのダイナミクスを解明する一手段としてマルチエージェントパラダイムが注目を集めており,頑強性の高い問題解決の実現が期待されている. そこで本研究では,まずマルチエージェントの「協調と均衡化クラス」に属する市場指向プログラミングに着目し,そのSCMへの適用を試みる.これは本手法が,新古典派経済学における一般均衡の考え方を基本に,計算機上に仮想市場を形成することにより,市場が本来有している分散資源割当てのメカニズムを用いて競争均衡により決定される価格をもとに分散資源割り当て問題を解くことができるからである. 本年度は,昨年度に行ったエージェントの定式化にもとづき,市場指向プログラミングを用いたSCMの運用イメージを作成した.そして,サプライチェーンシステムの基礎実験モデルとして計算機上に小規模なサプライチェーンシミュレーションモデルを構築し,計算機実験により提案するSCM運用法の有効性について定量的に検証を行った.さらに,この基礎実験結果を基に,サプライチェーンの実規模シミュレーションモデルを複数サーバ・クライアントを含む計算機環境上に構築し,実規模レベルでの提案手法の有効性について検証を行い,経済学をアナロジーとする市場指向プログラミングをべースとしたSCMの効率的運用法について研究成果報告書にまとめた.
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