研究概要 |
プラズマクロマトグラフィによる原子内包フラーレンを含むフラーレン複合物質の分離・精製をする場合、これらの物質を昇華させてイオン化する必要がある。そこで、フラーレンの昇華特性を把握するための異種混合フラーレン粉末を用いた昇華実験を行った。昇華実験は、超高真空排気装置(10^<-6>〜10^<-7> Torr)内に設置したフラーレン昇華用オーブンに対象試料を充填して加熱をし、回収基板に堆積した昇華物をレーザー脱離飛行時間型質量分析装置(LD一TOF MS)によって質量分析した。使用した粉末(煤)は、炭素棒-炭素棒によるアーク放電(放電電流I_<arc>=100A,ヘリウムガス圧P_<He>=600 Torr)で得られた煤であり、C_<60>を主とした高次フラーレン(C_n>70)が含まれている。実験によって得られた結果は、以下の通りである。 (1)昇華用オーブン温度を変化させた場合におけるC_<60>,C_<70>,C_<74>およびC_<96>の質量分析から求めた平均強度の結果より、フラーレンの質量数または炭素数が増えるにつれて、各フラーレンの昇華しやすい温度が高い方へと移行する傾向がみられた。特にC_<74>に注目すれば、500℃付近で昇華した場合に平均強度が高くなることが判明している。 (2)(1)の結果を踏まえて、アーク放電法もしくはプラズマ法で形成した原子内包フラーレンの昇華実験を行った。回収基板に堆積した薄膜のLD一TOF MSによる質量分析並びに高分解能電子顕微鏡(HREM)による直接観察の結果、原子内包フラーレンに相当する物質の存在を示唆する結果が得られている。しかし、未だ相当量の無内包フラーレンが存在しているため、効率の良い分離・精製にまでは至らなかった。 以上の結果をまとめると、今後の課題は、原子内包フラーレンの分離効率を向上させるための昇華温度制御の確立と、イオン化した物質の選別と回収方法の工夫であるといえる。
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