中性子捕捉療法はあらかじめ腫瘍に選択的^<10>Bを集めておき、中性子を照射し、発生する核反応エネルギーで腫瘍を破壊する治療法である。現在、悪性黒色腫に選択的に^<10>Bを集積させるp-ボロノフェニルアラニン(以下BPA)が使われている。悪性黒色腫はメラニン生合成が活発化しており、そのメラニン生合成部位においてはメラニンの前駆体であるメラニンモノマー(ドーパ、DHI、DHICA)が多量に存在している。BPAはこれらのモノマーと錯形成し、さらにその錯体が酸化される時にホウ酸とチロシンに分解されることが水溶液中での^<11>B-NMRの研究で明らかにされている。この錯形成と分解がBPAによるホウ素の悪性黒色腫への集積と減少であると我々は考えている。 本研究ではハムスター悪性黒色腫から調製したメラニン前駆体を含む細胞内小器官を遠心分離機で分画し、それにBPAを加えて^<11>B-NMRを測定し、BPAとメラニン前駆物質との相互作用を調べた。メラニンモノマーを豊富なオルガネラであるコーテッドベシクル(CV)を多く含む小顆粒分画(SGF)、およびメラニンポリマーが豊富なオルガネラであるプリメラノソーム、メラノソームを含む大顆粒分画(LGF)にBPAを添加して^<11>B-NMRで経時的変化を追跡した。その結果、SGF-BPA系においてBPA-メラニンモノマー錯体と思われるピークが2時間後に現れ、時間と共にピークが大きくなり、8時間後にはブロードなピークになった。CVを含まないLGF-BPA系においてはそのピークはみられなかった。 担癌ハムスターにBPAを投与後2時間と10時間後に悪性黒色腫細胞を分画し、SGFとLGFについて^<11>B-NMRの測定を行った。BPA-モノマーのピークは得られなったものの、投与後2時間のSGFとLGFにBPAとホウ酸のピークを検出した。投与後10時間後のSGFにおいては、わずかながらホウ酸のシグナルのみが検出された。投与後10時間のLGFではホウ酸のピークのみが検出された。これらのホウ酸のピークはBPA-モノマー錯体の形成の結果であると考えられる。
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