研究概要 |
最終氷期から完新世初期にかけての気候の急激な温暖化に対して植生がどのように応答したかを明らかにするために,函館市近郊のアヤメ湿原(標高750m)の堆積物を採取し,約8500〜14000cal yrs BPの堆積物の花粉分析を行って,以下の点を明らかにした. 1)完新世開始の温暖化に反応し,ヤンガードリアス期に成立していた亜寒帯林の構成要素のうち,トウヒ属は徐々に減少して,約600年後に消滅する.また,モミ属は,それより約500年後に現在と同様の存在度となる。 2)冷温帯林構成要素(コナラ属,ニレ属,クルミ属,クマシデ属等)は,完新世開始の温暖化への反応は,針葉樹の反応に約200年遅れる。 3)完新世初期の森林は,ニレ属・クルミ属の割合が現在の植生に占める割合よりも高く,また個体数も多いことで特徴づけられる. 4)完新世初期の冷温帯林の組成は,温暖化後約3000年経過しても変化の途上にあり,完結しない. 5)アヤメ湿原で認められるヤンガードリアス期は,12500〜11450cal yrs BPで,グリーンランド・ヨーロッパにおける年代とよく一致する. 6)気候変動に伴って湿原植生が変化する場合としない場合がある.湿原植生の変化は地下水位の変化に反応し,気温の変化は主要な要因ではない可能性がある。
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