本研究課題のもとに我々は、干潟土壌微生物を対象とした極めて鋭敏なフォスファターゼ活性の簡易測定法の開発に成功した。 さらにフォスファターゼの活性値と干潟土壌ATPバイオマス測定値と組み合わせてクラスター分析を行う事により、試みた広島湾干潟および諌早湾干潟20カ所が、4タイプに分類できる事を見出した。注目すべき事はこの4分類は、化学的環境測定と生物学的調査を踏まえて干潟を総合的に考察し、一般的に海域の生態学的分類指標として利用されている吉田の4類型海域、すなわち1.貧栄養、2.高栄養、3.過栄養、4.腐水域の分類と極めて良く対応している事である。そこで我々は、クラスター分析をさらに発展さ、フォスファターゼ活性数値とATPバイオマス測定値を説明関数、クラスター分析によって類型化された干潟タイプを目的関数とした重回帰式を導入し、干潟タイプを上記4類型に分類化できる数式を提案した(EMECS2001)。これは干潟の生態的環境状態を、生化学計測によって総合的に定量化できる事を示した最初の報告であり、干潟環境のモニタリングに極めて有効な指標となることが期待される。 さらにこの指標を基盤として、有機物負荷によって干潟土壌環境がどのように変遷を遂げるのかについて検討を進めた。その結果、先行実験により、嫌気的環境によってフォスファターゼ活性が著しく低下し、干潟土壌が類型3の過栄養から類型4の腐水域型へと変換することを明らかにしている。次年度はこの変遷過程をさらに詳しく解析し干潟環境の変遷を土壌微生物の生化学的変遷を通して解析したい。
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