研究概要 |
本研究課題のもとに我々は、平成12年度干潟土壊微生物を対象とした極めて鋭敏なフォスファターゼ活性の簡易測定法の開発に成功し,さらにフォスファターゼ活性値と干潟土壌ATPバイオマス測定値とを組み合わせた重回帰式すなわち干潟環境類型化式を作成した(平成13年度)。このことは、対象となる干潟の土壌フォスファターゼ活性値とATPバイオマス測定のみにより、この環境類型化式を用い、海域の生態学的分類指標として一般的に幅広く利用されている吉田の4類型海域分類、すなわち1.貧栄養、2.高栄養、3.過栄養、4.腐水域の分類を容易に定量的に検討できることを意味している。 本年度(平成14年度)はこの類型化式を応用して(1)広島県竹原市賀茂川干潟の環境状態をどの程度把握できるのか。(2)有機物負荷による干潟土壌の変化をこの式を用いて解析できるのかという2つの課題を設定して研究を行った。 その結果(1)の課題については干潟40カ所から採取した土壌におけるフォスファターゼ活性とATPバイオマス測定により、前述の類型化式を用いることにより各地点での環境を類型化した。さらにAVS可視化ソフトを用い、最終的に賀茂川河口干潟環境状態を2次元的に数値マップとして表示することができた。さらにこの結果から干潟東部のある領域が、著しく類型化数値が高いことが示され、その要因を生物分布、栄養塩調査等から検討した。その結果、環境数値が高くなる理由の一つとして、アオサ由来の有機物負荷によることが推定された。実際に(2)の実験により、賀茂川干潟土壌へタンパク質を負荷することにより、土壌環境の類型化数値が高くなり、過栄養→腐水域の状態にまで変質することが明らかになった。 また干潟に生息するアマモ、アオサの分布調査をGPSと連動した歩行調査で詳細に行い、両分布と土壌環境の関係を検討した結果、フォスファターゼ活性値がアオサ生息領域ではアマモ生息領域に比べて約2.8倍高くなり、また統計的にも(P=0.0024)有意差があるることを捉えることができた。またこの活性値の差異は冬季には全く解消されることが明らかになり、夏季におけるアオサの繁茂が海洋への無機リン酸の供給にダイナミックに関与している干潟の実態が明らかになった。
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