平成12-13年度の成果を踏まえ、開発した干潟環境類型化式を広島県竹原市賀茂川河口干潟に適用し、干潟内の環境状態が、どの程度この類型化式によって把握できるかについて検討を行った。その結果干潟全体の類型化値は平均1.6、すなわち吉田の環境区分では(2)富栄養域に類別されることが示された。結果を裏付けるように、干潟希少種であるハクセンシオマアネキを始めとした多くの甲殻類や、ウミニナやモノアラガイ等の巻貝、アマモ、アオサの繁茂が観察された。さらに興味あることは、AVSソフトによって類型化数値をマッピングした結果、局所的に類型化数値が2.8と吉田の環境区分においては、過栄養に類別される領域が干潟中央に存在することが明らかになった。さらにその要因を検討した結果、この領域は、高密度に繁茂したアオサが、夏季において高温に熱せられたタイドプールからの海水の澪筋にあたこることから、アオサ枯死によってもたらされる有機物負荷が、土壌微生物のフォスファターゼ活性誘導をもたらす結果であることが示唆された。またこの推定は、同時に行われた室内での土壌に対する有機物負荷実験によっても証明された。すなわち、採取した干潟土壌にアルブミンやカゼインなどのタンパク質類、およびオレイン酸やオリーブなどの脂質を負荷することによって類型数値が著しく上昇し、その要因は微生物の総量変化ではなく、フォスファターゼの活性増加であることをつきとめることができた。併せて、干潟に生息するアマモとアオサの生息分布を測定し、両生息地域が類型化数値で有意差があることを明らかにした。 以上の結果、干潟環境類型化式が干潟環境のモニタリングに極めて有効であることが明らかになり、干潟環境に係る基礎研究のみならず、造成後の干潟環境モニタリングヘの活用など干潟行政にとっても有用な研究成果に結びつくと思われる。
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