研究概要 |
霧は雨に比べて人間活動による汚染の程度が高く、森林をはじめとする生態系に与える影響が大きいといわれている。しかし、森林を含む地表面に対して霧の水滴の沈着がどの程度の汚染物質をもたらすかは、モデル計算や樹幹流の測定などで間接的に見積もられたことはあるが、直接測定した例はない。本研究では、高吸水性ポリマー(SAP)が液体の水を多量に捕捉できることに着目し、水滴の沈着フラックス(Fw)を測定する方法を開発した。この実験は安定した霧を人工的に発生できる釜石鉱山の立坑で平成12年度と13年度に行われた。Fwが求まれば、個々の成分の沈着フラックス(Fi)は霧水の成分濃度をCiとすると、Fw・Ciとして計算できる。このことに基づき、従来から酸性度が高い霧が出現する場所としてよく知られている赤城山で霧による汚染物質の沈着フラックスを観測する実験を平成14年度に行った。この実験では、シート状のSAPを加工して針葉樹の葉に似せた擬似針葉と、ミズナラの葉に似せた擬似広葉を作製し、擬似樹木と実際の樹木に取り付けて野外の霧に曝した。それと同時に、霧水捕集機により霧水を採取して、それに含まれるイオン成分の分析を行った。その結果、擬似葉の表面へのFwは風上側で大きくなり、最大で210g/m2/hに達した。Fwは水滴の粒径が大きいと風上側のフラックスが大きくなること、擬似広葉と疑似針葉の値がほぼ同じになったことから、葉の形状に依存しないことが示唆された。一方、霧水の成分としてはH+,NH4+,SO42-,NO3-が主要であった。全般にpHが低く、2.7に達するものがあった。測定されたFwと霧水の分析値から、pHが低いケースでは、H+の沈着量が他のイオンのそれを大きく上回ることが分かった。霧が長時間にわたって発生し、霧水の成分濃度が高かった9月5日における各イオンの沈着量はH+、NH4+、SO42-、NO3-がそれぞれ0.22、0.07、0.06、0.04meq/m2であった。霧水のpHが4以上になるとH+は重要ではなくなり、NH4+がカチオンの大部分を占めた。霧はSO42-に比べ、NO3-が高濃度であることが知られている。本研究では、そのような一般的な霧の特徴とは逆の結果がいくつかのケースで得られている。この原因として、三宅島の噴煙の影響が及んでいた可能性が考えられる。
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