環境を酸性化する原因物質として本研究者らは硫黄化合物に注目し、それらの環境における動態を解析する手段として同位体化学的研究を行ってきた。硫黄同位体比(34S/32S)が、硫黄を含む化合物が生成したときの物理的・生物的環境によってごく僅かに異なることを利用して、環境中の硫黄がどこから発生しているものかを推察しようという試みである。そのためには、環境中に硫黄を放出する可能性があるものについて、その硫黄同位体比を予め測定し、データベースを構築しておく必要がある。これまでに、人為発生源となる石炭・石油について数多くの硫黄同位体比の測定を行い、データを蓄積してきた。しかし、酸性雨をもたらす硫黄化合物には自然起源をもつDMSやCOSの存在が無視できないことが近年注目されており、環境における硫黄の動態を追跡する上で、硫黄同位体比の測定は不可欠の状況となっている。 本年度は、海洋から植物プランクトン経由で発生するDMSを効率よく捕集する方法として、Tenax樹脂による吸着を検討した。吸着効率・脱着効率の評価は、ガスクロマトグラフィーによって行った。DMSの標準試料として、5ppmの標準ガスを用いた。 1)Tenax樹脂1gを内径8mmのガラス管に詰め、冷却剤を用いて冷却しながら5ppmDMS標準ガスを通じたところ、アセトン-ドライアイスで捕集が完全に行われた。 2)開閉式電気炉の温度をコントロールしながら、脱着時間の検討を行ったところ400℃1分間が最適であった。 3)一方で実験室的に藻類からDMSを発生させてDMSの基質となる硫黄化合物を特定し、さらに上記捕集法の適性を確認するため、DMS発生藻類の培養を行った。最適培養条件は検討中であるが、繁殖の見通しがついたので次年度に成果が期待される。
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