研究概要 |
平成14年度では,東日本沿岸部(噴火湾,陸奥湾,東京湾II(内湾部),東京湾IV(湾口部),以上水産庁提供)及び北西太平洋(IAEA提供)の海底堆積物コア試料中の含有元素並びに放射性核種を放射化分析等で定量し,その結果を用いて地球環境科学的な考察を試みた。特に,過剰鉛210(^<210>Pb_<ex>)の放射能分析から,各地点・各層の時間高分解能の堆積速度が求められるので,堆積環境や堆積メカニズムについて時間軸を与えて考察することが可能となる。 その結果,以下の知見が得られた。(1)東京湾IVにおけるCe/U比及びTh/U比から考えられた酸化環境は,^<210>Pb_<ex>放射能濃度深度分布において,試料の混合が考えられる深度とほぼ一致するため,海底地形などに起因する試料の混合による可能性が示唆された。(2)陸奥湾は,河川からの寄与を比較的強く受けていると思われるが,堆積速度が遅いことが明らかとなった。また,試料の混合とは別の要因で堆積物中が酸化環境にあると考えられ,他の沿岸堆積物とは異なる環境にあることが示唆された。(3)太平洋試料は外洋であるため,河川の影響を直接受けず,堆積速度も明らかに遅いことが判明した。また,水成沈殿物と考えられるマンガン(Mn)の濃度が高いことと,セリウム(Ce),ウラン(U)及びトリウム(Th)において,深度に伴う濃度変動が小さいこと等から,その堆積メカニズム及び堆積環境が沿岸部とは異なることが示唆された。(4)鉄(Fe)及びMn濃度の上昇が見られた噴火湾第5層(深度8〜10cm)の堆積年代は^<210>Pb_<ex>堆積年代法により,およそ1940〜1950と算出された。また,その年代は有珠火山が昭和新山を形成した1943〜1945年と一致した。(5)パイライト(FeS_2)の生成,パイライトに伴うMnの共沈等を考慮すると,噴火湾第5層〜第7層(深度8〜14cm)以深のMn及びFe濃度の上昇は,有珠火山の噴火の影響を反映した可能性が大きい。
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