2002年度の研究実績は、継続的に実施しているフィールド調査の概要、および集積情報の整理と解析に分けて記述する。 1.フィールド調査の概要:前2年間に引き続き、神戸市北区の「しあわせの村」内の里山環境を含む調査区域において、4〜10月の期間に月2回の割合でチョウ類のトランセクト調査を行った。前2年に比較して、種数、各種多様度指数、環境指数はいずれも減少・低下した。種別に見ると、里山環境に適応したジャノメチョウ科のチョウ、ミヤマセセリ、テングチョウ、アカシジミの生息密度の低下が目立ち、逆にオープンランドの種の生息密度の上昇が認められた。チョウの発生時期の前に里山内のササ類が皆伐されており、このことは里山環境内を明るくすることには役立っていたが、ササ食(ジャノメチョウ類)のチョウの発生数に悪影響を及ぼしたと考えられた。このことから里山環境の維持のためのササの伐採は、モザイク状に時期をずらして実行する必要があるといえる。 2.集積情報の整理と解析:首都圏の都心緑地である赤坂御用地の調査結果をまとめ、皇居との比較からササ食のチョウの生息密度が環境指標になる可能性を考察した。また、首都圏、関西圏の複数の調査地での調査結果を解析して、都市環境指標にチョウ類群集を用いる場合の問題点を、地域分類の妥当性、調査法の精度、多様度指数の問題点、個別の種の環境識別性に整理して論じ、あわせてチョウ類群集による都市環境評価を普遍化するために首都圏での調査が重要であることを指摘した。
|