突然変異誘発にかかわる数種類のDNAポリメラーゼがヒト細胞や大腸菌において見いだされた。突然変異誘発に対するこれらDNAポリメラーゼの役割、損傷の種類と各ポリメラーゼとの対応を明らかにすることが本研究の第一の目的である。さらに種々の変異原によるDNA損傷がこれらのポリメラーゼの働きでどのような突然変異となるかを調べることが第二の目的である。 導入遺伝子と内在遺伝子との間で高頻度に相同組換えを起こすことが知られるニワトリDT40細胞を用いて、突然変異にかかわる遺伝子をノックアウトさせることを目的に、ニワトリRev3遺伝子を単離した。また突然変異アッセイのためのhprt(+/-)ヘテロ接合体株を樹立した。さらにDNA除去修復にかかわるXPA遺伝子ノックアウト細胞を樹立した。環境中の多環芳香族炭化水素の1つである3-ニトロベンツアントロンのグアニン付加体をベータガラクトシダーゼ遺伝子に1つだけ挿入したプラスミドを作成し、大腸菌で複製させて突然変異の種類を調べるアッセイ系を構築した。その結果、野生株大腸菌ではグアニン付加体の対面にはチミンが挿入されることがわかった。ベンゼンの代謝産物であるハイドロキノンはNADH、2価金属イオン存在下で欠失突然変異およびG: C→T: A塩基置換突然変異を起こしやすいことがわかった。そのような条件下では発生したヒドロキシラジカルがDNA損傷を起こし、それがDNA鎖切断へとつながるものと推測された。また8ヒドロキシグアニンが生じることも確認しこれが塩基置換へつながると推測された。 本研究によって、環境変異原によるDNA損傷がどのようにして突然変異へつながるか、その機構の全容解明へ一歩前進した。
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