(A)トリブチル錫の細胞死メカニズムに対する細胞外カルシウムイオン濃度の影響を胸腺細胞(免疫系細胞)検討し、以下の結果を得た。 (1)細胞外液のカルシウムイオンを除去すると、トリブチル錫の細胞毒性は著しく増強する。カルシウムイオン濃度を上げていくと3mMで細胞毒性は最も弱くなるが、10-30mMでは毒性が再び強くなる。すなわち、トリブチル錫の細胞毒性に対して、細胞外カルシウムイオンは拮抗的、促進的の二相性に働くことが考えられた。また、トリブチル錫によるアポトーシスの誘発には細胞外カルシウムイオン濃度の上昇は促進的に働いた。 (2)細胞内カルシウムイオン濃度をカルシウムイオノフォアA23187で上昇させても、トリブチル錫の細胞毒性は増強しなかった。つまり、トリブチル錫による細胞死のトリガーには細胞内カルシウムイオンの関与は認められるが、細胞死プロセスの進行には細胞内カルシウムイオン濃度の持続的上昇は関係しない可能性が考えられた。 (B)トリブチル錫の神経系に対する影響の一端を明らかにする目的で脳神経細胞NMDA反応に対する効果を検討し、以下の結果を得た。 (1)NMDA反応(内向き電流)自体にはトリブチル錫(100nM)は影響を与えなかった。しかし、NMDA反応の終了時に観察される外向き電流は著しく増強した。 (2)この外向き電流はNMDA反応に伴う細胞内カルシウムイオン濃度の上昇によって起こるカリウム電流でカリブドトキシンで抑制されたトリブチル錫が細胞内カルシウムイオン濃度が通常レベルに戻るのを遅延させることが考えられた。NMDA反応は記憶など多くの神経機能に関与しており、そのトリブチル錫による反応の修飾は神経機能に何らかの影響を与える可能性が示唆された。
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