水域の微量元素濃度は水生生物の元素濃度として反映されるので、水生生物の元素濃度から生息水域の元素汚染状況の評価が可能である。3種類の生物標準試料を用いて、試料前処理法および誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)の分析精度管理法を確立した。(1)確立した試料前処理法はテフロン分解容器中で、粉末試料に、超微量分析用硝酸を加え、家庭用電子レンジを用いて、試料を溶液化する方法である。(2)確立したICP-MS定量法は、内標準法の分析値を参考にして、標準添加法で定量する方法である。標準添加法により定量可能と考え、分析対象元素を、Al、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、As、Se、Mo、Cd、Sn、SbおよびPbとした。ICP-MS定量法により、魚類のギンブナ(Carassius auratus langsdorfii)臓器、巻貝類のカワニナ(Semisulcospira libertina)中腸腺・生殖腺、海産二枚貝のタイラギ(Atrina pectinata)部位中の元素濃度を定量した。ギンブナおよびカワニナの元素濃度から生息水域の元素濃度の特徴を、タイラギの元素濃度から部位元素濃度の特徴を検討した。研究結果を次のように要約する。(1)ギンブナ各臓器元素濃度の比較および臓器の大きさから、体腎および肝臓を分析対象臓器とした。福岡県下のダム湖および河川から採取したギンブナ両臓器および生息水域の元素濃度から、水域の特徴として、筑後川はAs、宇美川はCr、Cu、Zn、Moが豊富であった。(2)カワニナの元素濃度は、ギンブナと比べ高い傾向にあり、特に、Mn、CoおよびNi濃度は数百倍も高濃度であった。(3)タイラギ各部位の元素濃度の比較から、腎臓濃度は高く、Co、Ni、Cd、Pbが高濃度に存在した。閉殻筋濃度は低かった。部位元素濃度に関して、多くの有意な元素濃度間の相関が存在した。
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