研究概要 |
メチル水銀(MeHg)の中枢神経毒性発現機構の一つとして酸化的ストレスの関与が報告されている。ミトコンドリア(Mit)は生体内で最も活性酸素を産生するオルガネラとして知られているため,今回はMeHgの中枢神経毒性がMitへの影響を介した酸化的損傷であることを明らかにする目的で研究を行い下記のような結果を得た。 1.脳Mit分画及びSMPを用いた実験結果より、脳において無機化反応が行われ、その主な部位はミトコンドリア内膜であり、そこで産生されるO_2^-によることが示唆された 2.脳SMPの無機水銀及びMeHgのin vitro曝露によりO_2^-産生が増強され、その作用は無機水銀がMeHgに比較して約5倍程度強かった。 3.MeHg曝露後ラットの大脳及び小脳の総水銀はかなり長期にわたりその濃度が維持され、一方、無機水銀は大脳、小脳ともに経時的に増加し、その濃度は小脳のMit分画で高値を示した。また、MeHg曝露により脳SMPのO_2^-産生は増加したが、大脳に比較して小脳において早期に増加した。さらに、MeHg曝露によって、脳MitからのCytochrome cの遊離は小脳においてのみ増加した。 4.対照のラット脳Mitの酸素消費量は、大脳に比較して小脳で顕著に多く、また、過酸化水素産生速度は大脳に比して小脳で顕著に大きかった。一方、対照のラット脳MitのGSHPx活性及びGSH濃度は大脳に比して小脳で顕著に低く、水銀曝露により小脳で顕著にその濃度が減少した。 以上の結果から、MeHgに対して脆弱性を示した小脳は、Mitにおける活性酸素産生能が大きく、消去能が小さいことが示され、MeHgの中枢神経毒性がMitへの影響を介した酸化的損傷であることが示唆された。また、これらは小脳での無機化を加速し、生成した無機水銀も関与している可能性がある。
|