デイーゼル車はガソリン車に比べると30倍から50倍の粒子状物質(DEP)を排出し、都市部における大気汚染の主要な原因となっている。我々はDEP成分が酸素と反応して生体に有害な活性酸素を産生させること、更に、DEP中にはカタラーゼ活性阻害物質が含まれていること、即ち、DEPは活性酸素の生成と分解の阻害、によって生体に障害を与える可能性を指摘した。DEPの生体に対する影響、更にその機構を解析するためには、DEP成分を系統的に分離し、生理活性を有する物質の化学構造と活性の相関を明らかにすることが必要である。これまでの研究において我々は、有機溶媒抽出によるDEP成分の系統的分離法を確立した。 近年、環境中の種々の化学物質がエストロゲン(E)作用を有することが報告されている。環境中のE作用物質が内分泌撹乱化学物質として作用し、ヒトあるいは野生生物の内分泌作用を撹乱し、生殖機能に障害を与える可能性がある。しかし、DEPの内分泌撹乱作用に関する研究は、まだ充分には行われてはいない。従ってDEP成分のE作用及び抗エストロゲン(抗E)作用に関する研究は緊急の課題である。 我々はDEP成分を系統的に分離し、得られた画分についてエストロゲンレセプター発現酵母を用いてE作用と抗E作用を調べた。その結果、ヘキサン、ベンゼン、ジクロロメタン、メタノール、1Mアンモニア抽出画分において、E作用は検出されなかった。一方、ベンゼン、ジクロロメタン、メタノールの画分には、高い抗E作用活性が認められた。更に、ヘキサン画分成分を中性、フェノール性、酸性の成分に分画したところ、中性画分には、E作用物質が認められた。即ち、DEP中には、エストロゲン作用物質と抗エストロゲン作用物質が存在することが明らかとなった。DEP中のこれらの活性を有する化合物は、生体内に蓄積した場合には、内分泌撹乱化学物質として作用する可能性がある。
|