1.マウスの線維芽細胞のcell lineである3T3-L1線維芽細胞を用いて、リポ蛋白リパーゼ(LPL)の発現および中性脂肪(TG)の蓄積に及ぼすビスフェノールA(BPA)の影響について検討した。BPAは、3T3-L1線維芽細胞の脂肪細胞への分化を促進する作用を持っていることを明らかにした。また、BPAで脂肪細胞に分化誘導した細胞にBPAとインスリン(INS)を同時に作用させると、INS単独の場合に比べて、LPL活性の発現もTGの蓄積も著しく増加した。この結果は、BPAはINSによる脂肪細胞の成熟促進作用を増強させる能力を持っているということを示している。BPAに比べるとかなり弱いけれども、ビスフェノールA二酢酸とビスフェノールAビスクロロフォルメートも同様の作用を持っていた。しかし、ビスフェノールAジグリシジルエーテルはそのような作用は示さなかった。従って、生体が、BPAあるいはその関連物質に長期間曝露されると、肥満を引き起こす可能性がある。 2.3T3-L1脂肪細胞を用いて、LPLの発現およびTGの蓄積に及ぼす4-ノニルフェノール(NP)および4-tert-オクチルフェノール(OP)の影響について検討した。NPは、3T3-L1脂肪細胞中でのLPLmRNAの合成を阻害し、LPL活性発現の著しい低下を引き起こした。また、TGの蓄積も著しく低下させた。OPも同様の作用を持っていたが、その作用は、NPに比べて弱かった。これらの結果は、生体がアルキルフェノール類に長期間曝露されると、血管壁へのLPLの供給が低下し、高中性脂肪血症を発症する可能性があるということを示唆している。 3.雄性マウス(4週齢)を、BPAを含む食餌で30日間飼育した。低容量(餌1g当たり1μgのBPAを含む)のBPAを含む食事で飼育したマウスの血糖値は、基本食で飼育したマウスに比べて、有意な差はないが高値を示す傾向にあった。しかし、副睾丸脂肪組織重量の増加や血中脂質の増加は認められなかった。
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