研究概要 |
風蓮川湿原でチャミズゴケ(Sphagnum fuscum)hummockの水文気象環境と栄養環境の指標であるECを測定した.また,約1ヶ月間隔でhummock上に生育するチャミズゴケの伸長量を測定した.得られたデータからhummock不飽和層の水収支とチャミズゴケの成長量を計算した. 水収支解析の結果,晴天日の日中に蒸発散によって失われたのと同量の水がhummock深層から表層に補給され,地下水面から深層への水移動量は蒸発散量より小さくなることがわかった.一方,降雨時は,hummock表層では供給された雨水の大部分がすぐに浸透し,一部が深層に貯留されることもわかった.以上のような機構で,hummock表層の含水率があまり変動しないことがわかった. チャミズゴケの成長は蒸発散量が降水量を上回った2001年5-6月においてもあまり抑制されなかった.このことからチャミズゴケは晴天が続いてもhummock深層や地下水面から供給される水によって枯死せず成長したことが推察された. ECはhummock深層で最も低かった.hummock深層では以下のようにして貧栄養環境になると推察される:(1)降雨時,hummockには雨水が,hollowには雨水と湿原縁の段丘からの比較的富栄養な水が供給される.(2)その後晴天が続くと,地下水面からhummock深層への水移動量が蒸発散量より小さいため,水位がhummockでhollowより高くなる.(3)hummock深層に富栄養水が流入しにくくなり貧栄養環境が保たれる.hummockが貧栄養環境になるため,競争力が強く生育に多量の栄養を必要とする低層湿原植生が侵入しにくいと推察された. hummockはミズゴケの枯死体が堆積してできたものであることを考えると,ミズゴケはハンモックを作ることでそれ自身の生育育に適した環境を作り出していたことが示唆された.
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