研究概要 |
本研究では、芳香族化合物にプレニル基を転移する二次代謝系プレニルトランスフェラーゼの構造を植物で初めて明らかにし、その発現調節および酵素化学的解析を通じて、本酵素の生理的役割並びにドナーとアクセプタの二種の基質の認識と反応機構を解明することを目的としている。 本年度は、ムラサキにおけるプレニル・トランスフェラーゼの発現パターンの解析を行った。クローニングしたcDNA(LePGT-1および-2)はDNAレベルで互いに74%の相同性が認められたが、そのN-末端の断片を用いたノーザンブロットにおいて、両分子種を個別に検出した。その結果、両者とも暗黒下においては、シコニン生産培地で非常に強くその発現が誘導されるのに対し、光照射下ではその発現が強く抑制されることが明らかにされた。また同様の発現抑制は、アンモニウムイオン、および合成オーキシンの2,4-Dにおいても認められた。これに対し本遺伝子の発現は、エリシターとして働くジャスモン酸メチルやオリゴガラクツロン酸で誘導された。これらの発現調節は、従来知られるムラサキのゲラニルトランスフェラーゼのそれと同一であり、実際に各調節因子の投与下、培養細胞でモニターした本酵素活性は、最終代謝産物であるシコニンやエキノフラン類の蓄積と共に、極めて良く一致する変動様式を示した。 次いで、酵母をホストとしたヘテロな発現系を構築するため、バックグラウンドとなり得る酵母内在のプレニルトランスフェラーゼ遺伝子Coq2の破壊を行った。Coq2遺伝子産物がターゲティングするのはミトコンドリアであるが、遺伝子破壊株(Δcoq2)では、ミトコンドリアを始め、小胞体でもプレニルトランスフェラーゼ活性が認められなかった。このΔcoq2をホストとし、シャトルベクターにサブクローニングしたLePPT cDNA2種を発現させた。その結果、形質転換酵母のミクロソーム画分において、LePGTに依存する明らかな4-hydroxybenzoic acid(4HB):prenyltransferase活性が認められ、ムラサキの本遺伝子産物が、確かに4HBにプレニル基を転移する活性を有する酵素をコードしていることが証明された。さらに、基質特異性を調べたところ、ムラサキのリコンビナント酵素はC10のプレニルドナーであるgeranyl diphosphateのみを特異的に基質として認識することが明らかにされた。
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