紅茶の色素は、カテキン類が酵素酸化されて生成するもので、theaflavin類(TF)とthearubigin類(TR)の二群に大きく分類される。TFの化学については既に確立されているが、TRは、極めて複雑な高分子量化合物であるために、その化学構造は未だに全く不明である。我々は植物酵素を用いて単純なカテキン類からTRが生成するまでの過程を追うことで、TRの化学を確立することを企図して研究を開始した。 1)カテキン類から酵素によってTFを生成させることに成功し、TFの大量供給法を確立した。 2)TFがさらに代謝された化合物として、テアナフトキノン及びビステアフラビンと命名した2種の代謝産物を見出し、さらに、TFの自動酸化によって生成する別のTF2量体を分離精製した。それらの化学構造はNMR等を駆使して解明し、これまで全く不明であったTF代謝の一部が化学的に確立された。 3)TFを経由するのとは別の紅茶色素生成経路の存在を明らかにした。一つはエピカテキンがA環とB環で酸化結合するルート、もう一つはエピガロカテキンがB環同士で酸化結合するルートである。それぞれのルートで生成する代謝産物として、これまでに数種の新規代謝産物を分離構造決定することに成功した。特に後者のルートは、水溶性の高い色素が生成する点でTR生成において重要なのではないかと推測され、これについては今後重点的に検討を行う予定である。 4)植物界に極めて広く分布するポリフェノールであるプロアントシアニジンでも、TFと同様なメカニズムで酸化が起こるか検討したところ、プロアントシアニジン上端ユニットのB環とカテキンとの酸化縮合が起こることが分かった。しかし、プロアントシアニジン同士の酸化縮合は確認できなかった。
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