本研究では、モノテルペノイド(イリドイド)配糖体およびベンゾキノール構造をもつ植物成分の生合成の関与するシトクロムP450モノオキシゲナーゼの機能と作用機序を明らかにすることを目的とした。 イリドイド配糖体であるセコロガニンの生合成においてほぼ70%が酸化過程であると考えられ、植物成分の生合成に係わるP450酵素を研究する上には最適な研究対象である。我々は既にスイカズラ培養細胞を用いて、ロガニンの酸化的開環反応を触媒するセコロガニン合成酵素(SLSase)および7-デオキシロガニン水酸化酵素(DLHase)がシトクロムP450酵素であることを明らかにし、さらに前者の作用機序を提案した。さらに同生合成経路を調査していく過程で、DLHaseの基質特異性の実験、速度論的解析、さらには7-デオキシロガニン酸のメチル転移酵素、同酸を生成する7-デオキシロガネチン酸糖転移酵素の諸性質より、DLHaseは酵素としては7-デオキシロガニンを基質とするが、細胞内でセコロガニン生合成に係わる場合は7-デオキシロガニン酸を真の基質とすることを明らかにした。したがって、セコロガニンは主に7-デオキシロガネチン→7-デオキシロガニン酸→ロガニン酸→ロガニンの過程を経て生合成されることを確立した。その他、7-デオキシロガニチンおよびその上流に位置する想定生合成中間体の化学合成も11-ヒドロキシイリドジアール(不安定で即座に異性化)を除いて完了した。現在酵素実験を続行中である。 ウチワノキ培養細胞において、ベンゾキノール構造をもつ特異な配糖体コルノサイドの生成に係わる酸化酵素がP450酵素であることを明らかにし、その作用機序を提出した。 本研究により、植物成分に係わるシトクロムP450酵素の機能の多様性および多様な作用機序を明らかにすることができた。
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