遺伝子DNAと特異的な相互作用を有し、遺伝子機能を制御する人工設計分子の開発は、ポストゲノム解析における極めて重要な研究課題である。本年度の研究においては、金属種などの添加剤を必要とせず、特定波長の光を照射することで、温和な条件下、DNAを塩基選択的かつ効果的に切断する新たな人工DNA切断分子を開発した。エンジイン系抗生物質ネオカルチノスタチン(NCS)(1)の活性本体であるネオカルチノスタチン・クロモフォア(NCS-C)は、チオールの求核反応をトリガーとして、DNAを切断することが知られているが、また、光照射をトリガーとしてもDNAを切断し、その切断における塩基選択性は、チオールの求核反応をトリガーとしたDNA切断の場合と異なることが知られている。本研究においては、光照射によるNCS-CのDNA切断とエンジイン構造との関係を明らかにし、新たな人工DNA切断分子を創製することを目的とした。すなわち、NCS-Cのエンジイン部分を有しない、糖と芳香環(インターカレーター)部分をエチレングリコールを介して連結した人工ハイブリッド分子2αおよび2β(2αおよび2βは、糖のグリコシド結合におけるアノマー)を設計、合成し、DNA切断活性を評価をした。その結果、2αおよび2βが、365nmの光照射下でDNAを切断することを見い出した。一方、2αおよび2βの構成成分である芳香環および糖部分には、DNA切断活性が全く無いことが確認された。このことから、NCS-Cの光照射によるDNA切断においては、エンジイン部分を有しない糖-インターカレーター複合型構造が関与していることを明らかにした。さらには、糖のグリコシド結合の立体化学が、DNA切断活性に影響すること、および、2αおよび2βは、DNAをグアニン選択的に切断することを見い出した。これによって、新たな光駆動型の人工DNA切断分子を創製することができた。
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