花粉(管)の細胞質可溶性蛋白質、膜蛋白質に対して、S-RNaseをリガンドとしたアフィニティークロマトグラフィーを行い、S-RNaseと特異的に結合する花粉管膜蛋白質(M. W.約70kD)を検出した。この蛋白質を2次元電気泳動で精製し、トリプシンによるin gel消化後、Q-TOF MSによりMS/MSシーケンシングを行ったところ、ヒトケラチンと一致し、クロマトグラフィーの操作段階で混入した不純物であると判明した。再度S-RNaseをリガンドとしたアフィニティークロマトグラフィーを試みたが、S-RNaseと特異的に結合する蛋白質は花粉(管)可溶性画分、膜画分のいずれにも検出されなかった。これは、S-RNaseを直接樹脂に結合させたため、樹脂との立体障害で花粉側因子がS-RNaseと結合できなかったためと考え、S-RNaseをその糖鎖(立体構造上、糖鎖は予想される認識部位から離れている)でレクチンカラムに結合させ、花粉(管)蛋白質抽出液に対してアフィニティークロマトグラフィーを行なっている。さらに、S-RNaseのC末端領域(立体構造上、C末端領域も予想される認識部位から離れている)のペプチドで免疫したポリクローナル抗体を用いた共免疫沈降法によりS-RNaseと特異的に結合する花粉側因子の検出も試みている。 また、表面プラスモン共鳴を原理にしたIAsysにより、in vitroでの花粉管伸長時に花粉管から培地に分泌される成分にもS-RNaseと結合する因子(M. W.約15kD)が存在することを見い出したが、アミノ酸組成分析、糖組成分析の結果、この因子は蛋白質ではなく、主に中性糖からできている多糖類である可能性が非常に高いことが判明した。しかし、S-RNaseとの結合にS遺伝子型特異的はなく、自他認識に関与する花粉側因子とは考えにくい。
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