研究概要 |
好中球は、造血幹細胞から分化・成熟すると、スフィンゴ糖脂質であるラクトシルセラミド(LacCer, CDw17)を細胞膜上に発現する。また、グラム陽性、陰性を問わず様々な細菌や真菌がLacCerと選択的に結合する。さらに、好中球はLacCerを介して活性酸素産生を産生する。したがって、LacCerは好中球の貪食機構に関与すると考えられるが、その詳細は不明であった。昨年度までに、好中球がLynと会合したLacCerのglycosignaling domainを細胞膜表面に形成していて、リガンドがLacCerに結合することで、glycosignaling domainでLynが活性化され、さらに細胞内のPI3 kinase、p38 MAPK、protein kinase Cが関与するカスケードを活性化し、好中球は活性酸素を産生することを明らかにした。 今年度は、前骨髄性白血病細胞株であるHL-60細胞がDMSOで処理することで好中球に分化し、活性酸素産生能を獲得することに着目し、HL-60細胞を好中球系に分化させた場合の、LacCerのGSDを介した活性酸素の産生について検討した。HL-60細胞は未分化な状態でもLacCerを細胞膜表面に発現しており、DMSOで処理しても、発現レベルに変化は無かった。DMSO処理HL-60細胞は、fMLPによって活性酸素を産生したが、坑LacCer抗体によっては活性酸素を産生しなかった。HL-60細胞の細胞膜から調製した糖脂質ミクロドメインには、好中球と同様に、LacCerとLynが局在していた。しかしながら、ミクロドメインの画分を抗LacCer抗体で免疫沈降すると、DMSOで処理したHL-60細胞からはLynが回収されなかった。従って、HL-60細胞はLacCerを含むマイクロドメインを持っているが、このドメインでLacCerとLynが会合していないために、好中球のようなLacCerを介したLynの活性化が起こらず、活性酸素を産生できないと考えられる。
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