1 タンパク質中のアスパラギン残基の脱アミド反応は、隣接するアミノ酸残基の影響を受けることが知られており、セリン、グリシンなどの特定のアミノ酸がN末側あるいはC末側に位置すると、加速されるといわれている。抗α_1-アンチトリプシンマウスモノクローン抗体Fab'断片の大腸菌発現系を用い、脱アミド反応を起こしやすいと考えられる、アスパラギンおよびグルタミンについて、一カ所ずつセリンに変異させた。昨年度確立した5種の変異体に加え、今年度はさらに1種の変異体を確立した。 2 各変異体ならびに野生型のFab'断片を調製し、ヒンジ部位の1残基のシステインをテトラメチルローダミンで標識した。スラブゲル等電点電気泳動により、主ピークを約99%の純度に精製した。 3 6種の変異体ならびに野生型標識Fab'を、pH7.5、37℃で15時間、ならびに30時間インキュベートした後、自家製の蛍光検出キャピラリー等電点電気泳動装置を用い、ピークの不均一化の程度を調べた。野生型では、元のピーク(pI 5.59)の酸性側にpI 5.42のピークが現れ、さらにインキュベーション時間の延長とともにpI 5.37のピークが出現した。元のピークの全体に占める割合を求め、この減少速度から不均一化反応の速度を求めた。6種の変異体の内4種では、野生型の不均一化速度とくらべて、10%以内の変化しか見られなかったが、2種では約70%および約35%と不均一化の速度が低下していた。この結果から、マウスIgG1 Fab'の電荷不均一化の主要な原因はアスパラギン残基の脱アミド反応であり、その位置はカッパー鎖の157番目(Kabat)とγ鎖の135番目(Kabat)であることが明らかになった。 4 主要な脱アミド部位のアスパラギンを2カ所セリンに変異させた、二重変異体を作成した。この二重変異体では、不均一化速度は野生型の約8%に低下していた。この改変体は、電荷的に不均一化しにくいアフィニティープローブの作成に有用と考えられる。 5 アスパラギンの脱アミド反応が特定の部位で起こることを明らかにし、その速度についての定量的知見を得た。現在、さらに立体構造と脱アミド反応速度の関係を調査中である。
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