研究概要 |
セラミド(Cer)は小胞体で合成された後、ゴルジ体へ輸送され、スフィンゴミエリン(SM)に変換される。我々は、チャイニーズハムスター卵巣由来CHO細胞を親株として、SM生産に欠損のある変異株(LY-A株)を得、この変異株の示すSM量低下が、小胞体-ゴルジ体間のATP依存性Cer輸送の欠損によることを見いだしていた。本課題期間中に、先ず、ATP依存性Cer輸送のin vitro再構成系を樹立した。すなわち、低張剥離処理により調製した膜開孔細胞において[^3H]Cerを合成させ、それに細胞質画分やATPを添加して37℃で保温する。その時の[^3H]Cerから[^3H]SMへの変換は、無傷細胞で見られる変換の諸性質(変換効率、温度依存性、変異株のCer輸送欠損)を再現しており、小胞体-ゴルジ体間Cer輸送活性の指標となることを示した。一方で、化学合成した新規Cer構造類似体群のなかから、Cer-SM変換を阻害する化合物(HPA-12)を見いだし、本化合物が小胞体-ゴルジ体間Cer輸送過程を選択的に阻害することを明らかにした。そして、これら実験系を用いた解析から、「小胞体-ゴルジ体間Cer輸送の主経路はATPおよび細胞質依存性であり、Cer認識因子が関与している」ことを明らかにした。 スフィンゴ脂質生合成の初発反応を担うセリンパルミトイル転移酵素(SPT)はLCB1,LCB2と名付けられた二つのサブユニットから成る。下肢の知覚神経退縮を伴う遺伝病の一つ・遺伝性知覚神経障害I型(HSN1)はLCB1遺伝子に特異的なミスセンス点突然変異を伴っていることが他の研究グループによって示された。我々は、(1)LCB2の安定維持にはLCB1との会合が必要であること、(2)HSN1型変異LCB1はLCB2と不活性型の複合体を形成することでSPT活性を抑制することを明らかにした。
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