光合成細菌R.rubrum中に含まれる転写調節因子CooAは、分子中にプロトヘムを含む、これまでに全く例の無い、新規な転写調節因子である。CooAの機能発現においては、一酸化炭素が生理的なエフェクターとして機能している。CooA中に含まれるヘムは、一酸化炭素センシングにおける活性中心として機能している。本研究では、遺伝子工学、分子生物学、および各種分光学的な実験手法を用い、CooA中に含まれるヘムの構造と機能の解明を行なった。CooA中のヘムは、酸化型、還元型、CO結合型、いずれの場合も6配位低スピン構造を有していた。共鳴ラマンスペクトル、NMRスペクトル、EXAFSスペクトルの解析により、詳細な配位構造の解明に成功した。CooAの非常にユニークな特徴の一つに、ヘムの酸化状態変化に伴うCys75とHis77間の軸配位子交換反応が進行することを見出した。パルスラジオリシス法により、本軸配位子交換反応の反応機構解析を行なった。その結果、この軸配位子交換反応は、二つの反応中間体を経て進行することが分かった。第一の中間体では、ヘム鉄が2価に還元され、Cys75由来のチオレートアニオンとPro2が軸配位している。ついで、Fe-S間の結合距離が伸びるか、あるいはチオレートがプロトン化することにより、第二の中間体へと変化する。第二の中間体から、Cys75とHis77間での配位子交換反応が進行し、最終産物である還元型CooAが生成することが分かった。His77をグリシンに置換したH77G変異体においても、野生型CooAの場合と同様、二つの中間体の存在が確認された。本変異体では、軸配位子交換反応は進行しないため、第二の中間体から最終生成物が生成する過程は、軸配位子交換を伴わない、ヘムポケットの構造緩和に対応しているものと考えられる。
|