研究概要 |
スフィンゴシン1-リン酸(S-1-P)は、細胞内外において作用し細胞内Ca^2+遊離作用を示すことや増殖、分化、アポトーシスの制御に重要な役割を果たすことが示唆されている。S-1-Pの産生酵素スフィンゴシンキナーゼ(SPHK)は性状が異なる2種類のSPHK1,2がクローニングされている。SPHKの活性調節機構を明らかにすることを目的としてマウスおよびヒトに対する両SPHK1,2の抗体を作製し,ヒト血小板から本酵素を部分精製し、抗体を用いて同定したところ、2種類の他にも活性ピークが検出され、他のアイソフォームの存在が確認された。S-1-Pの特異的受容体(EDG1,3,5,6)を介する細胞内シグナル伝達機構を明らかにすることを目的として、特異的受容体であるEDG3を過剰発現したCHO細胞を用いて、S-1-Pシグナリングを検討した。EDG3を介するS-1-P刺激では、各種情報伝達酵素が活性化されるが、ホスホリパーゼD(PLD),PI3-キナーゼ,Aktが活性化されることが新たに見いだされた。さらに、PLDの下流でPI3-キナーゼ・Aktが活性化されることを見いだした。PLDは抗アポトーシス作用を示すことを示唆しており、これらのシグナリング系がS1Pによる細胞死の抑制に関与していることを示唆した。また、TNFα刺激による肝細胞のアポトーシス誘導では、SPHKの阻害剤DMSによりアポトーシスが増強されることが認められた。TNFαはSPHK活性化をもたらし、産生されたS-1-PはPI3-キナーゼ・Aktの活性化を介して生存シグナル系に重要な調節因子であることを示唆した。
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