病原性大腸菌O157の産生するベロ毒素(SLT-1またはStx)に対する粘膜免疫の誘導とベロ毒素に対するIgA型モノクローナル抗体の開発をめざして研究を行った。糖鎖結合サブユニット(Bサブユニット)を組換え型として単独で発現・精製し実験に用いた。粘膜アジュバントのコレラトキシンとともにBサブユニットでマウスを経口免疫、または経鼻免疫した。Bサブユニット特異的なIgG抗体価の上昇が血中で認められ、弱いながらもIgA抗体も検出された。粘膜免疫によって全身性免疫系の活性化も誘導されることがわかった。経鼻免疫の方が早期に抗体価が上昇した。糞中および腸洗浄液中に分泌型IgA抗体が検出されたが、さらに腸管粘膜固有層から密度勾配遠心法で単離したリンパ球を用いて、ELISPOT法で抗原特異的なIgA抗体産生細胞を検出し、その培養上清中に抗原特異的なIgA抗体を検出した。一方、糖鎖認識プローブとしてのBサブユニットの有用性を追及した。ヒトのバーキットリンパ腫細胞がフローサイトメトリーを用いてBサブユニットで極めて高感度で検出されることを示した。また、マウス腎臓尿細管や集合管上皮が強く染色されることを免疫組織化学的に示し、ヒトと同様な局在であることがわかった。ヒトのBリンパ球の活性化過程で、胚中心のBリンパ球にStxが結合し、細胞毒性あるいはBサブユニット自身のアポトーシス誘導活性によって抗体のアフィニティー成熟やクラススイッチが妨げられる可能性が示唆されている。これがマウスにも当てはまると、Stxに対して高いアフィニティーを持つIgA抗体の作製が困難と予想される。そこで、免疫したマウスのリンパ節およびパイエル板の胚中心にBサブユニットが結合するかどうかを調べたところ、結合しなかった。この結果は、マウスの粘膜免疫によってBサブユニット特異的なIgA抗体が誘導できたことと符合している。
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