単離精製した予定胞子分化誘導因子の部分アミノ酸配列をもとに合成したオリゴヌクレオチドを用いて、細胞性粘菌のcDNAライブラリーから本分化誘導因子のcDNAを単離することができた。この分化誘導因子のcDNAの塩基配列から、本因子の全アミノ酸配列を決定した。その結果とN末端などのアミノ酸配列の結果から、本因子は557個のアミノ酸残基からなるたんぱく質として合成された後、N末端の19残基が切断された538個のアミノ酸残基から成るたんぱく質であると考えられる。このアミノ酸残基から求められる本因子の分子量は約6万となり、SDSページから予想した分子量10万6千と大きく異なっている。この大きな差の要因のーつは、アスパラギン結合型糖鎖の存在であると考えているが、その他の修飾および特異的なたんぱく質構造が存在する可能性を考えている。この特異的な構造を示唆するものとして、このアミノ酸配列からシステイン残基およびプロリン残基に富んだ配列がそれぞれ比較的長く存在することが明らかとなっている。そこで、これらの部分が構造および活性にどのような影響を与えるかを明らかにする研究も現在計画中である。アスパラギン結合型糖鎖に関しては、一次構造上結合可能な部位は、6カ所存在することが明らかになるとともに、レクチンとの本因子の結合様式などから、高マンノース型あるいは混成型であることが明らかになってきており、現在さらに詳細に構造の解析を進めている。 また、本因子の遺伝子を発現ベクターに組み込んだ発現系に関しては、大腸菌を宿主細胞とした系では現在のところフレームシフトが起こり本因子の発現にはいたっていないが、粘菌を宿主細胞とした系では予備的に多量に発現できることを確認しており、これらの発現系を用いた実験も進めている。
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