研究概要 |
血管内皮細胞上の主要なATPやADP分解酵素であるecto-ATPDase/cd39のノックアウトマウスは、血小板の凝集能が著しく低下しているにも関わらず、各臓器において凝固系の活性化を示唆するフィブリンの沈着が増加している。この事は、cd39が除かれたために、過剰に存在する細胞外ヌクレオチドが、血管内皮細胞の機能に影響を与えている可能性を示唆している。細胞外ヌクレオチドの生理機能への影響をcd39ノックアウトマウスを用いて検討した。 マウスにエンドトキシン(LPS)を投予後、経時的に観察し生存率を測定した。又、血漿中のIL-1β,TNF-α,IFN-r,IL-6の濃度をELISA法によって測定した。さらに肺、肝臓、腎臓でのNOS並びにICAM-1の発現をノーザンによって経時的に観察した。その結果、このノックアウトマウスは、LPS投与に対して、完全な耐性ではないものの、野生系と比較して、遅延した致死を認めた。また、血漿中のTNF-αは野生系と比較して低い値を示したが、一方IFN-rは野生系よりもむしろ高い値を示し、これはノックアウトマウスのリンパ球の機能低下のために血管内にとどまるリンパ球、白血球の多いことによると思われた。光顕レベルでの組織像には野生系との間に際だった差は認められなかったが、現在、抗体を用いて、免疫組織学的に精査を進めている。ATPは、NOの産生を促すことが知られており、又、NOはLPSに対して保護作用を発揮することによって致死率を減少させているのではないかと検討を行ったが,mRNAレベルではNO合成酵素の発現は野生系と差は認められなかった。2年度に計画しているAPOEとのダブルノックアウトマウスについては、すでにその約4分の1がcd39もしくはAPOEのホモであり、16分の1が両遺伝子のダブルノックアウトマウスであることを確認しており、生存率には影響を与えていないようである。今後十分な数のマウスが得られしだい、高コレステロール食を負荷して、動脈硬化症発症への影響を検討する予定である。
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