筋収縮は、アクチンフィラメントとミオシンフィラメントとが互いに滑り合うことで生じる。この滑り力は、筋分子モーターであるミオシン頭部がATPの化学エネルギーを使って、構造変化をすることによって作られると考えられている。しかし、ミオシン頭部での力発生の分子メカニズムや発生した力がアクチンフィラメントにどのように伝達されるかの分子過程の詳細は、まだ明らかにされていない。 本研究では、単一筋分子モーターを対象としてこの問題を詳しく調べた。まず、ミオシン頭部での力発生にはアクチンフィラメントとの相互作用が必須かどうかを遺伝子操作により作成したミオシン頭を用いて調べた。このミオシン頭を原子間力顕微鏡で捕まえて、カンチレバーのたわみを計測することによって、発生する力と分子の変形を同時に計測した。その結果、アクチンフィラメントとの相互作なしで、ミオシン頭だけで力を発生していることを示唆する実験結果を得た。一方、マイクロビーズにミオシンフィラメントを結合させ、このビーズの運動を指標として滑り運動の様子を解析して、アクチンフィラメント上でミオシンがどのような運動をするのかを、詳しく調べた。その結果、ビーズに結合させたミオシン分子数が多い場合には、ビーズはアクチンフィラメント上を直線状に滑った。しかし、ビーズに結合するミオシンフィラメントの数が減るにつれて、ビーズはふらふらと左右に揺れながら滑った。この結果は、ミオシン分子モーターで発生した力によって起こる滑り運動は、アクチンフィラメントとの相互作用に依存して滑りパターンを変えることを示している。 以上、本研究の結果から、ミオシン分子内部で起こる分子変形が滑り運動の原動力を発生し、ミオシン分子モーターとアクチンの相互作用により滑り運動の全体的パターンが決まることが分かった。
|