酸素センサータンパク質FixLは、マメ科植物の根に根粒を形成する根粒菌中に存在し、周囲の酸素濃度を感知し、窒素固定酵素の合成を遺伝子レベルで調節するヘムタンパク質である。FixLはヘム結合ドメインとキナーゼドメインから成り、前者は酸素濃度を感知し、後者はATPからリン酸基を受け取りレギュレータータンパク質FixJをリン酸化する。周囲の酸素濃度が高いときには、ヘム鉄に酸素が結合し、キナーゼ活性を示さない。しかし、酸素濃度が低下すると、ヘム鉄から酸素が解離し、キナーゼ活性が上昇してFixJのリン酸化を通して窒素固定遺伝子が活性化される。 平成12-14年度にわたる本研究では、酸素濃度の変動という環境情報が最終的に窒素固定酵素の合成にまで伝達されるプロセスの「かなめ」の位置にある酸素センサータンパク質FixLに着目し、(1)ヘム結合ドメインの構造と機能の解明、(2)他のヘムタンパク質、例えばミオグロビン、ヘモグロビンとの詳細な比較、(3)FixL分子内の情報伝達機構の解明、(4)FixLとFixJとの相互作用の解明、(5)リン酸化に伴うFixJの活性化と転写活性機構の解明などをを行うことができた。なお、FixLを含めたヘムタンパク質に共通する自動酸化メカニズムの解明については、従来の活性酸素発生説をくつがえす活性水素説を提唱したが、現時点では論文審査員と論争中である。以上、当初の研究目標のほぼ90%を達成することができたが、上記の自動酸化メカニズムの解明については今後の展開を待ちたい。
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