これまで我々は蛋白などの生体高分子のモデルとしてのスピン系の挙動を調べ、特にタンパクモデルとしてのゼロフラストレーション系はタンパクと同様の平衡状態での2状態転移、アレニウス型の構造形成速度論を示すことを見い出した。さらに、ゼロフラストレーション系では基底構造形成の際、秩序構造への転移前のスピン間の相関を調べて見ると弱い相関が転移温度に近づくにつれ徐々に全体に広がるということがわかった。つまり、ゼロフラストレーション系の構造形成に重要なものは弱いが全体に広がった相関である。これはランダムにパラメータを選んだスピン系では見られない。タンパクの挙動において最小フラストレーションが重要ならば、このような無秩序状態におけるなんらかの相関の特異性が実際のタンパクフォールディングにおいても見られることが期待される。また最近、タンパクフォールディング速度論はそのトポロジーに支配されているという報告が見られるが、これは変性状態においてネイティブ構造に対応する構造が現われることを示しているように思われる。スピン系の相関は高分子ではいわゆる対相関関数に対応するが、本研究では、タンパク残基間平均距離から導出した残基間有効ポテンシャルを用いて残基間対相関関数を計算し変性状態において相関がどのような挙動を示すか、特にネイティブ構造を反映した特徴を示すかどうか検討した。タンパクとしてBPTIの配列を用い、poly-Alaの挙動と比較した。その結果BPTIの対相関関数は単純な高分子としての挙動も示すが、poly-Alaと比較すると低温部においてpoly-Alaの対相関関数はランダムな対相関を示しているのに対しBPTIの場合はネイティブ構造に対応する特定の残基対に強い相関が見られることがわかった。この結果は、残基間相関情報が立体構造予測に利用できる可能性を示唆するものである。
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