(1)平滑筋収縮はモーター蛋白質であるミオシンのリン酸化により調節されている。ミオシンから片方の頭部を完全に取り除いた(単頭)ミオシンは、もう一方の頭部が正常であるにもかかわらず、もはや調節を受けない。この結果から、我々は、リン酸化による調節にはミオシンの双頭構造が非常に大切であると考えている。ここでは、片方の頭部からモータードメインだけを取り除いたミオシン、モータードメインと必須軽鎖を取り除いたミオシン、頭部全体を取り除いたミオシンをそれぞれ作成し、調節には頭部のどの部分が本当に必要かを検討した。結果は、S2と呼ばれる尾部の一部に頭部の活性を抑制する働きがあること、リン酸化によってこの抑制が消失すること、その際2つの調節軽鎖の相互作用が必要であることが明らかになった。 (2)リン酸化部位と活性中心は約100オングストロームも離れており、この遠距離情報伝達がどのような機構で起こるかは未だに明らかになっていない。ここでは、モータードメインと隣接するコンバータードメインの間に人工変異を加えて、両ドメインの結合構造の一部を壊したミオシンを作成して、遠距離情報伝達がどのような機構で起こるかについて検討を加えた。その結果、2つのドメインをつなぐ3つのイオン性結合を全部壊してしまうとミオシンは力を全く発生できなくなるにもかかわらず、ATP加水分解反応のリン酸化による調節はまったく正常に起こることがわかった。この結果から、我々はリン酸化の情報伝達は力の伝播の逆の経路を伝わるのではなく、例えば、モータードメインとS2領域の直接接触による情報伝達のような、別の機構があると我々は考えている。
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