(1)平滑筋ミオシンのモーター活性は調節軽鎖のリン酸化を介して調節されている。しかしながら、調節軽鎖は活性中心から100オングストローム以上も離れており、軽鎖がリン酸化したという情報がこの遠距離をどのようにして伝わるのかという問題は未だ解明されていない。本年度は、リレーループとコンバーター領域に人工変異を導入して、これらの領域の遠距離情報伝達における役割について検討を加えた。二つの領域は疎水性アミノ酸結合とイオン性結合で繋がっている。イオン性結合に関与するアミノ酸残基をすべて人工変異して、イオン性相互作用を完全に壊してしまっても、リン酸化ミオシンはアクチン繊維を走らせる力を保持していた。また、脱リン酸化ミオシンはアクチン繊維を走らせることは無かった。この結果から、モーター機能およびその調節はリレーループとコンバーター領域のイオン性相互作用を必要としないと結論した。 (2)平滑筋ミオシンの活性中心にはよく保存されたアルギニンとグルタミン酸があり、ミオシン結晶構造の解析から、ヌクレオチド結合状態では両残基の間にイオン架橋を形成することが知られている。ATP加水分解にこのイオン架橋の形成が必要不可欠であるかを検討するために、これらの残基を別のアミノ酸で置き換えた人工変異ミオシンを作成し、加水分解反応の変化を調べた。アルギニンをグルタミン酸に、グルタミン酸をアルギニンに置き換えた変異体は元のミオシンの10分の1のATP加水分解活性を持つことが判明した。この結果から、ATP加水分解を起こすためにイオン架橋の形成が不可欠であると結論した。
|