研究概要 |
平成12年度は,コンディショナル活性型STAT3(STAT3-ER)を恒常的に発現するES細胞株を用い、STAT3を活性化したES細胞と活性化していないES細胞の間で発現量が異なる遺伝子を、サブトラクション法やマイクロアレイ法によって探索した。またES細胞をLIF存在下で培養した場合と非存在下で培養した場合の間で発現量の異なる遺伝子についても、同様の方法で探索した。その結果、LIFやSTAT3の標的遺伝子と思われる候補遺伝子を多数見いだした。 平成13年度には、これらの候補遺伝子のうち、embryonic ectodem development (eed) 、ならびにzinc-finger protein(zfp)57に注目して研究を進めた。まずノーザンブロット法を用いて、2つの遺伝子がLIF存在下では発現し、LIF非存在下では発現が低下していることを確認した。さらにZfp57については、未分化状態維持に必要であることが知られているOct-3/4と結合することを見い出した。またHEK293細胞を用いてレポーターアッセイを行った結果、Oct-3/4の標的遺伝子であるRex-1の発現をOct-3/4とZfp57が協同的に誘導することが判明した。 一方、Eedはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)と複合体を形成することが報告されている。HDACは様々な遺伝子の発現抑制に関与することが知られているので、EedとHDACが共同してなんらかの遺伝子の発現を抑制している可能性があった。そこでES細胞をHDAC阻害剤で処理したところ、LIF存在下でも分化が誘導された。このことから、HDACによる分化誘導因子の発現抑制にEedが関与している可能性がある。興味深いことに、EedがRex-1とも結合することを見い出した。 以上の結果からOct-3/4とSTAT3の標的分子であるZfp57によって誘導されたRex-1がSTAT3標的分子EedやHDACと結合して、ES細胞の分化誘導因子の発現を抑えることによって、ES細胞の未分化状態が維持されている可能性が考えられた。
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