RNAポリメラーゼII(Pol II)最大サブユニットのカルボキシル末端領域(CTD)には、特徴的な7アミノ酸配列(Y-S-P-T-S-P-S)の繰り返しが存在している。CTDはリン酸化を受けることによってmRNAプロセシング因子と特異的に結合し、転写過程のみならず転写後のmRNA成熟過程にも重要な役割を担っていることが近年明らかになってきている。私は、転写過程とmRNAプロセシング過程を協調させている分子メカニズムの解明にアプローチするために、リン酸化CTDに結合する新規蛋白質の同定と機能検索を行っている。これまでにヒト新規蛋白質PCIF1および細胞周期調節関連蛋白質Pin1が、これらの蛋白質中に共通して存在しているWWドメインを介してリン酸化CTDと特異的に結合することを見出している。本研究において、これらの蛋白質の構造と機能を更に解析し以下のような知見を得た。(1)免疫組織学的観察およびヒト培養細胞抽出物に対する免疫沈降法による解析は、PCIF1とリン酸化Pol IIとの細胞内における会合を示唆した。(2)検査した全てのヒト組織においてPCIF1 mRNAの様な発現を検出した。(3)PCIF1およびPin1のヒト培養細胞に於ける過剰発現は、レポーター遺伝子発現のトランス活性化をそれらの発現量に依存して強く抑制した。(4)PCF1及びPin1の細胞内ターゲットを、酵母two-hybrid法及びGST-pull down法によって検索し、遺伝子発現に関わる数種の核内因子を候補として得た。リン酸化基質特異抗体を用いたスクリーニングから、PCIF1がPin1と同様にリン酸化蛋白質を標的にしていることが示唆された。(5)リン酸化CTDペプチドを用いた結合実験に於いて、PCIF1のWWドメインはCTD7アミノ酸配列中5番目のセリンのみがリン酸化したCTDペプチドに対し2番目のセリンのみがリン酸化したものに比べより強いアフィニティーを示したが、Pin1のWWドメインは両者を区別しなかった。
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