初期転写複合体の成立機構をin vivoで解析するため、転写の伸展を待つばかりの状態で凍結した、Paused polymeraseをモデルに、RNA aptamerを用いた新しい方法を導入し、解析を進めた。RNA aptamerはSELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)によって選択された機能RNA分子であり、i)抗体のように、ある蛋白質特異的に作用し、ii)低分子物質のように細胞中で迅速に標的とする特異的蛋白質に結合でき、かつ、iii)全器官中でその効果を期待できる、応用性の高い分子である。初期転写複合体の成立に関与する基本転写因子の中で、paused polymeraseの成立に最も関与すると考えられるTBP (TATA binding protein)の機能を阻害するaptamerの選択に成功した。表面プラズモン共鳴を用いた解析するから、選択したそれぞれのaptamerの解離定数は10^<-7>から10^<-8>程度を示し、特異的に結合していることが明らかになった。選択したaptamerは、転写を促進するものと転写を抑制し、短い転写物を蓄積するものの二種類に大別された。TBPに対するaptamerがこのような作用を示すことから、転写複合体中でTBPを核ととした因子の組み合わせにより、転写が調節されていることが示唆される。TBPに対するaptamerの効果は、TBPに結合している因子の結合を阻害あるいは強固にしたために生じたものと類推される。TBPのaptamer結合部位を解析する事により、転写複合体中での因子の結合状態、位置関係を知ることができる。現在、個々のaptamerについて結合部位を同定している。今後、aptamerを細胞内に導入する事でin vivoでの解析を進め、転写複合体中の各因子の相互関係について明らかにしていく予定である。
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