研究概要 |
大腸菌を宿主として増殖するFプラスミドの複製開始蛋白質(RepE)に特異的に結合する宿主因子、GTP結合蛋白質ObgEを分離し、この蛋白質の性質を調べた。ObgEは真核細胞、原核細胞に広く保存されているGTP結合蛋白質である。大腸菌では機能未知遺伝子であったが、我々はObgEと命名し、大腸菌でこのホモログの性質をはじめて、詳細に解析した。大腸菌の生育に必須であることを明らかにした。しかしその機能についてはどの生物系においてもわかっていなかった。ObgE遺伝子の温度感受性変異株を分離し、その性質をいろいろの手法を用いて解析した結果、ObgEが不活性な状態では染色体DNAの複製開始や伸長は正常に行われたが、染色体が分配されなかった。このことからObgEは直接、間接的に染色体の分配に関与していることがわかった。この蛋白質は対数期の細胞では細胞あたり約3万分子存在し、リボゾームタンパク質や核様体タンパク質の存在量に相当すること、この蛋白質の多くは膜結合していること、さらにObgE蛋白質の精製法を確立し、精製ObgEを用いて、これがGTP加水分解活性を持つこと、細胞内ではモノマーとして存在すること、DNAとの結合能があること等を明らかにした(Kobayashi et al.,Mol. Microbiol.,2001)。ObgEが細胞内に欠損している状態でのトランスクリプトームとプロテオームの解析を行なった。その結果、前者の解析からテストした遺伝子約4,000個のうちの約10%の遺伝子が翻訳レベルにおいて、増加または減少することが観察され、転写活性に影響をもたらすことがわかった。プロテオーム解析の結果は染色体結合タンパク質やリボソームタンパク質の修飾等に影響が見られ、リボソームの成熟過程に関与する可能性が示唆され、これらの結果からObgEは核様体の構築に関与しているのではないかと作業仮説をたてている。
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