ヒトがん細胞におけるCDH1遺伝子のエピジェネティックな不活性化において、DNAメチル化とヒストン修飾がどのように相互作用しているかを解析した。CDH1遺伝子の発現が抑制されている膀胱がん細胞T24、胃がん細胞HSC41では両者ともプロモータ領域が高度にメチル化され、ヒストンも低アセチル化状態にあった。ヒストンH3の9番目のリジン残基(H3K9)は両細胞ともメチル化されていた。しかしヒストンH3の4番目のリジン残基(H3K4)はT24細胞ではメチル化されていなかったが、HSC41細胞ではメチル化されていた。また同じ発現抑制細胞である肝がん細胞Li21ではプロモータ領域は低メチル化状態にあり、ヒストンH4の高アセチル化、H3K4、H3K9両方のメチル化が見出された。このように同じ発現抑制細胞間でもDNAメチル化、ヒストン修飾の実態には大きな差があることが見出された。しかしいずれの細胞もプロモータ領域が不活性クロマチンを形成し、転写因子の結合を阻害していた。これらの細胞をDNAメチル基転移酵素阻害剤で処理した場合Li21でのみCDH1遺伝子の発現回復が見られたが、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤処理では発現回復は見られなかった。これらの結果は、DNAメチル化がCDH1遺伝子発現抑制に重要な役割を果たしていること、またDNAメチル基転移酵素阻害剤処理による発現回復には特定の条件が必要であることを示している。
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