本研究の目的は、ヒトORC、CDC6あるいはMCM等の複製開始調節蛋白質の時間的空間的制御を明らかにしようとするものである。まずそれらの核内構築や細胞周期制御を調べた。ORC2は細胞周期を通じて核内に存在しているが、クロマチン結合分画と、核マトリックス結合分画があった。一方、ORC1はほぼすべてが核マトリックスに結合していた。そして、ORC1とORC2は核マトリックス上で相互作用していた。よって核マトリックス上のORC2-5はORC1と複合体を形成し、これがDNA複製において機能していると推測される、我々はORC1がS期になるとユビキチン/プロテアソーム系によって分解されることを見出し、これは再複製抑制機構として重要であろう。CDC6も核マトリックスに結合していたが、ORCとの間に明らかな相互作用は認められなかった。一方、MCM複合体は、核マトリックス結合ORCの近傍のみならず、より広範囲なクロマチンに結合していることが示唆され、これはヒト細胞における複製開始ゾーンの存在の説明となるかもしれない。平行してヒトグロビン遺伝子座を標的としたCHIP法の検討を行った。ベータグロビン遺伝子直上の領域を仮想上の複製開始点とし、ここを含む計7箇所の領域を半定量的PCRで調べられる条件を確立した。非同調HeLa細胞を用いた、CHIP解析のpreliminaryな結果は以下のようである。MCM3とMCM7はクロマチン上で複合体を形成しており、両抗体での結果が一致すると特異性が高いと言える。これまでの結果から、MCMは調べたすべての領域に結合している可能性が示された。これは前記した生化学的、細胞生物学的解析の結果と矛盾しない。しかし、複製開始点により高頻度で結合している可能性も示された。ORC2、CDC6は今の所明確な結果が得られていない。最も重要であると考えているORC1蛋白に関しては、当初使用していた抗体が解析に適さず、tag付きORC1を安定発現している細胞を樹立し解析を始めた。CHIPに関してはまだ一定の結果を得たと言える状態に達しておらず、さらなる検討が必要である。
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