ウニ卵の正常受精では、細胞内Caイオン(Cai)の増加と細胞内pH(pHi)の上昇が連続して起こる。このあと、精子中心体の周りに微小管が重合し精子星状体が形成される。本研究では、両者の変化を分離することにより、ウニ卵での精子中心体による星状体形成におけるCaiとpHiの役割を調べることを目的とした。Caiの抑制はCaキレート剤の細胞内注射によって行い、pHiの制御は外液を酢酸アンモニウムを含む海水にする方法とpHの高いpH bufferを卵内に注入する方法の2通りを行った。ウニには、タコノマクラ(Clypeaster Japonicus)を用いた。Caキレート剤を注入した未受精卵を媒精すると、精子は卵内に進入するが、精子星状体は形成されない。この卵では、pHi上昇は抑制されていた。この受精卵のpHiを7.0以上にすると、精子星状体が形成されることが分かった。一方、媒精直後にNa欠如海水で処理されpHi上昇を抑制された受精卵では精子星状体は形成されない。この受精卵でもpHiを7.0以上にすると、精子星状体の形成がみられた。これらの結果から、受精卵による精子星状体の形成には、Caiの増加のあるなしにかかわらず、pHiが7.0以上に上昇することが必要であることが分かった。次いで、ウニ精子から鞭毛を除いた頭部を未受精卵に導入して、精子星状体の形成の有無について調べた。このまま放置しても、精子星状体は形成されないが、pHiを上昇させると、導入した頭部を中心として精子星状体が形成された。Caiの増加は、頭部導入時においても、pHi上昇時においてもみられなかった。これらのことから、受精卵、媒精による精子侵入卵、精子頭部導入卵のいずれにおいても、卵内に導入された精子内の中心体を活性化させ、微小管重合を引き起こさせ、ついには精子星状体を形成させることができるには、Caiの増加がなくてもpHiを上昇させるだけで十分であることが分かった。
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