我々は、小胞体から核への細胞内情報伝達を伴う転写誘導機構UPRに関与する転写因子として単離したベーシック・ロイシンジッパー型タンパク質ATF6が、通常は小胞体膜に結合したII型の膜貫通型糖タンパク質(その分子量からp90ATF6と呼ぶ)として合成されていること、小胞体ストレス条件下でUPRが活性化されるときには、p90ATF6は分子量50kDaの可溶性核タンパク質p50ATF6に変換されることを明らかにし、膜結合性転写因子ATF6がプロテオリシスにより活性化されるというモデルを世界に先駆けて提唱している。本年度さらにこのモデルを検証し、以下のように本モデルを強く支持する結果を得た。 1)細胞を高濃度(1.0mM)のジチオスレイトール(ジスルフィド結合を破壊する薬剤)で処理すると、p90ATF6が効率よくp50ATF6に変換されることを見い出し、この条件を用いた間接免疫蛍光法により、ATF6がプロテオリシスに伴って実際に小胞体から核へ局在を変化させることを証明した。 2)UPRの標的遺伝子の上流にはERSEというシス配列が共通して存在し、ERSEは転写誘導に必要十分として機能する。そのコンセンサス配列はCCAAT-N9-CCACGであり、CCAATには一般的な転写因子NF-Yが結合することから、CCACGにUPR特異的な転写因子が結合すると考えられている。in vitroで翻訳したp50ATF6を用いてゲルシフト法で解析した結果、p50ATF6はCCACGに単独では結合できないがCCAATにNF-Yが結合しているとCCACGに結合することを見い出した。またこのとき、CCAATとCCACGの間の距離は9塩基でなければならず、p50ATF6はNF-Yと物理的な相互作用を示した。 3)ERSEのCCACG部分の点変異体を解析した結果、ERSEのp50ATF6結合活性と転写誘導活性は強く相関することを明らかにした。
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